法人成りは、メリットのほうがよく語られます。節税になる、信用面でプラスになる、事業を拡大しやすくなる。どれも間違いではありません。
一方、私は法人成りの相談を受けるとき、メリットだけではなく「法人にしたあと、実際に何が増えるのか」も必ずお伝えしています。
たとえば、税金だけ計算すると法人が有利なのに、社会保険まで入れると逆転する。役員報酬を低くすると税負担は減るけれど、個人で自由に使えるお金が足りない。
会社を作ってから「思ってたのと違う」とならないために、法人成り前に知っておきたいデメリットを5つ整理します。
| # | 法人成りのデメリット | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① | 社会保険の負担が増える | 税金が下がってもトータル負担が増えることがある |
| ② | 固定費・ランニングコストが増える | 赤字でも出ていくお金がある |
| ③ | 事務負担が増える | 税務・給与・社会保険の手続きが増える |
| ④ | 会社のお金を自由に使えなくなる | 会社に残った利益は、そのまま自分のお金ではない |
| ⑤ | 法人をやめるのも大変 | 作るときだけでなく、閉じるときにも手間と費用がかかる |
デメリット①:社会保険の負担が増える
まず一番大きいのが社会保険です。
法人成りすると税金が安くなるケースはあります。ただし、所得税と法人税だけを見て「法人のほうが得」と判断すると失敗することがあります。
個人事業主であれば、基本的には国民健康保険と国民年金。法人を設立して役員報酬を受け取る通常のケースでは、健康保険と厚生年金に加入します。
法人事業所は、社長1人だけの会社でも原則として社会保険の適用事業所になります。
税金だけなら安くても、社会保険を入れると逆転することがある
別の記事で、法人成りした場合の税金と社会保険料を実際にシミュレーションしました。
個人事業の利益が600万円あり、法人化後の役員報酬を月45万円としたケースです。
| 項目 | 個人事業主 | 法人・役員報酬月45万円 |
|---|---|---|
| 税金 | 約93万円 | 約46万円 |
| 社会保険 | 約78万円 | 約151万円 |
| 負担合計 | 約171万円 | 約197万円 |
税金だけなら、法人化したほうが約47万円安くなります。ところが社会保険料は約73万円増え、税金と社会保険を合わせると法人のほうが約26万円負担が大きくなりました。
私は法人成りの相談を受けることも多いですが、その際には必ず社会保険を含めた損得シミュレーションをお伝えしています。個人と法人の税金だけではなく、社会保険料を含めて、初めて判断できるのです。
同じ利益600万円でも、役員報酬を下げれば法人が有利になるケースもあります。詳しいシミュレーションは「法人成りのタイミングは利益いくらから?」の記事で紹介しています。
社会保険料はざっくり給与の3割前後
千葉県の協会けんぽを例にすると、2026年度の主な料率は次のとおりです。
- 健康保険 9.73%
- 厚生年金 18.3%
- 子ども・子育て支援金 0.23%
- 子ども・子育て拠出金 0.36%(会社負担のみ)
健康保険・厚生年金・子ども・子育て支援金は基本的に会社と本人で折半します。
40歳未満なら、会社負担と本人負担を合わせた社会保険関係の負担はざっくり28~29%程度。40歳から64歳までは介護保険料も加わるため、おおむね3割前後になります。
実際の保険料は標準報酬月額を使って計算するため、単純に給与へ料率を掛けた金額と完全に一致するわけではありませんが、法人成りを検討するときの大まかな負担感としては「給与の30%」と考えておくとイメージしやすいです。
もちろん、だから社会保険は損だという話ではありません。厚生年金に加入すれば将来受け取る年金は増えますし、健康保険にも国民健康保険とは異なる給付があります。
ただ、「今、会社と個人からいくらお金が出ていくのか」というキャッシュフローで見ると、法人成りによって負担が大きく増えることがあるのです。
従業員がいる場合はさらに注意
従業員を雇っている個人事業主が法人成りする場合は、自分だけではなく従業員分の社会保険も確認します。
2026年現在、個人事業所は常時5人未満であれば、原則として社会保険の強制適用事業所ではありません。また、常時5人以上でも、農林漁業、宿泊業、飲食サービス業など、法定17業種以外の事業所は原則として強制適用の対象外です。
一方、法人になれば原則として強制適用です。
たとえば、個人事業時代には社会保険へ加入していなかった事業所で、標準報酬月額30万円のフルタイム従業員が4人いるとします。
40歳未満・協会けんぽ千葉の2026年度料率でざっくり計算すると、1人あたりの会社負担は月4万3,000円程度。年間で約52万円です。
4人なら年間約208万円の負担増になるわけです。従業員がいる状態で法人成りする場合、私は社長本人だけでなく、従業員分まで含めた社会保険料を確認することが重要でしょう。
デメリット②:固定費・ランニングコストが増える
2つ目は、法人を維持するためのお金です。
個人事業主にはなかった固定費がいくつか発生します。
赤字でも法人住民税の均等割がかかる
代表的なのが法人住民税の均等割です。赤字でもかかる税金、と言われます。
たとえば柏市に本店がある、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の一般的な小規模法人であれば、12か月の事業年度では次のようになります。
| 税金 | 年額 |
|---|---|
| 柏市の法人市民税均等割 | 5万円 |
| 千葉県の法人県民税均等割 | 2万円 |
| 合計 | 7万円 |
法人税は所得がなければ基本的には発生しませんが、均等割は赤字でもかかります。
第1期が12か月未満の場合などは月数に応じて計算されますが、基本的には「会社を持っているだけでも一定の税金がかかる」と考えておきましょう。
年間7万円だけを見れば、それほど大きな金額ではないかもしれません。ただ、法人になるとこうした小さな固定費が積み重なります。
税理士・社労士・ソフトなどの費用も増えやすい
法人税の申告は個人の確定申告よりかなり複雑です。税理士への依頼は義務ではありませんが、法人化を機に依頼を検討する方は多いでしょう。
従業員がいれば、社会保険や労務関係の手続きを社労士へ依頼することもあります。
このほか、
- 法人向けの会計ソフト
- 給与計算ソフト
- 法人口座や法人カード
- 登記事項を変更するときの登録免許税
- 株式会社なら役員の重任登記
など、個人事業主時代にはなかった費用が発生することがあります。
私は法人成りのシミュレーションで、税金と社会保険を合わせても数万円しか有利にならないのであれば、それだけで法人化をすすめることはありません。
維持コストや手間まで入れれば、その程度の差は簡単に消えてしまうからです。
デメリット③:事務負担が増える
3つ目は事務負担です。
これは間違いなく増えます。
自分1人だけの会社でも、役員報酬を支給すれば給与を支払う会社になるので、
- 給与計算
- 源泉所得税の計算・納付
- 年末調整
- 給与支払報告書
- 法定調書
などの事務が発生します。
社会保険に加入すれば、
- 資格取得・資格喪失
- 算定基礎届
- 月額変更届
- 社会保険料の納付
などもあります。
従業員を雇えば、さらに労働保険や雇用保険関係の手続きも加わります。
年に一度は法人税・法人住民税・法人事業税などの決算申告もあります。
個人事業主時代は自分の確定申告だけしていればよかった方でも、法人になると会社と個人を分けて管理する必要があります。
私自身も会社を経営していますが、税理士で手続きに慣れていても「法人にすると管理するものは増えるな」と感じます。
経理や手続きが好きなら自分でやっても構いません。ただ、社長の時間にもコストがあります。
数万円の専門家報酬を節約するために何十時間も調べ、本業の売上を作る時間が減ってしまうのであれば、本当に得なのかは考えたほうがいいでしょう。
設立直後に必要な届出については、「法人成りの手続き・届出・必要書類まとめ」で一覧にしています。
デメリット④:会社のお金を自由に使えなくなる
これは個人的に、法人成り前にもっと意識してほしいポイントです。
個人事業主の場合、事業用口座に入っているお金は自分のお金です。生活費が必要なら引き出せばいいし、遊びに使っても、経費に使ってもいい。
法人になると違います。
会社の口座に1,000万円あっても、その1,000万円は社長個人のお金ではありません。法人のお金です。
個人の生活費として使うには、
- 役員報酬
- 役員賞与
- 配当
- 会社へ貸していたお金の返済
など、適切な形で個人へ移す必要があります。
「法人のほうが税金が安い」と「自分のお金が増える」は別
ここは法人成りのシミュレーションでもかなり重要です。
役員報酬を低く設定すると、個人側の所得税や社会保険料を抑えられ、税金・社会保険の合計では有利になることがあります。
ただ、その分だけ利益と現金は会社に残ります。
会社に500万円残っているからといって、社長が翌日に500万円を生活費として自由に引き出せるわけではありません。
損益シミュレーションは大事ですが、「税金が最も少なくなる役員報酬」だけを考えても意味がないのです。
毎月いくら生活費が必要なのか。会社にいくら残しておきたいのか。そこまで考えて役員報酬を設定しなければなりません。税金上で得なことが、正解とは限りません。
役員報酬も途中で自由には変えにくい
さらに、役員報酬は従業員の給与のように、好きなタイミングで自由に増減できるものでもありません。
法人税上、役員報酬を損金にするには定期同額給与などの要件があり、通常の改定は原則として事業年度開始から3か月以内に行います。
「最初は月20万円にして、儲かったら半年後から50万円にしよう」というような設定は、税務上問題になることがあります。
法人成りをしたら、会社と個人は別財布です。
デメリット⑤:法人はやめるときも手間とコストがかかる
最後は、会社をやめるときです。
会社設立の記事では「どうやって会社を作るか」はよく説明されますが、「会社をやめるとき」のことはあまり考えないまま設立する方も多いと思います。
個人事業であれば、廃業届などを提出し、最後の確定申告をすればよい。
一方法人は、事業をやめただけでは法人そのものは消えません。
きちんと会社を閉じるには、
- 解散
- 清算人の選任
- 解散登記
- 債権・債務の整理
- 税務申告
- 清算結了
- 清算結了登記
などの手続きが必要になります。
株式会社なら、解散と清算人選任の登記だけでも登録免許税が3万9,000円かかります。清算結了の登記にも費用がかかりますし、自分で対応しなければ司法書士や税理士への報酬も考える必要があります。
しかもこの清算結了まで、時間がかかるんですよね…。
つまり、法人は「とりあえず作って、合わなければすぐ閉じればいい」というほど軽いものではないわけです。
株式会社なら放置すると「みなし解散」、合同会社は放置しても勝手に消えない
株式会社には、最後の登記から12年以上経過した休眠会社について、一定の手続きをしなければ解散したものとみなされる制度があります。
ただし、役員重任登記など一定の登記をしないまま放置すると、過料(ペナルティ)が課されることがあります。
合同会社、有限会社には、みなし解散の制度はありません。合同会社の役員には任期もないので、過料の問題もないでしょう。
私は、会社は作るときよりも、やめるときのほうが面倒だと感じることがあります。
会社を作ること自体は、今は設立サービスを使えば比較的簡単です。一方、会社を閉じるときは資産や負債、税金、契約関係まで整理しなければなりません。
「ダメだったらすぐ個人事業主に戻ればいい」と考えているのであれば、出口にも手間とコストがあることは知っておいたほうがいいでしょう。
法人成りして後悔しないためには、事前に数字を出す
ここまで読むと、法人成りを止めているように見えるかもしれませんが、そういうわけではありません。
ただ、事前に知っておけば防げた損を、してほしくないのです。
- 税金
- 社会保険
- 法人の固定費
- 従業員の社会保険
- 役員報酬
- 個人で必要な生活費
- 会社に残したい資金
- 法人を維持する手間
まで見る必要があります。
同じ利益でも、役員報酬の設定ひとつで法人が有利になったり不利になったりします。
法人成りとセットで税理士選びも考える
法人になると税務・会計の難易度は上がります。
税理士への依頼は義務ではありませんが、法人化を機に依頼を検討する方も多いでしょう。
ただ、税理士なら誰でも同じではありません。
申告だけしてほしいのか、法人成りのシミュレーションや役員報酬まで相談したいのか、融資や経営についても相談したいのか。求めるものによって合う税理士は変わります。
私は報酬の安さだけではなく、「自分が相談したいことを相談できる人か」を確認したほうがいいと思っています。
税理士の選び方については、別の記事で詳しくまとめています。
まとめ
法人成りにはメリットがありますが、その裏側には次のようなデメリットがあります。
| デメリット | 注意点 |
|---|---|
| 社会保険 | 税金が下がってもトータル負担が増えることがある |
| 固定費 | 赤字でも均等割などのコストが発生する |
| 事務負担 | 給与・税務・社会保険などの管理が増える |
| お金の自由度 | 会社の利益は、そのまま社長個人のお金ではない |
| 廃業・解散 | 法人はやめるときにも手続きと費用がかかる |
法人成りするかどうかは、自分の数字を使って事前に計算して決めること。
そしてデメリットまで理解したうえで、それでも法人化するメリットのほうが大きいのであれば、安心して会社を作ればいいと思います。
当事務所でも、税金だけではなく社会保険料や役員報酬まで含めた法人成りのシミュレーションを行っています。会社を作る前に一度確認しておきたい方は、お気軽にご相談ください。
