iDeCo「10年ルール」で大損?退職所得控除・19年ルールと役員退職金、小規模企業共済の出口設計【2026年改正】

「iDeCoの5年ルールが10年ルールに変わったらしい。今すぐ一時金を受け取らないと損ですか?」

最近、お客様からこのようなご相談がありました。

結論からいうと、「2026年から10年ルールになった=すぐiDeCoを受け取った方がいい」とは限りません。

特に会社経営者や役員、個人事業主の方は、

  • 過去に勤務していた会社からの退職金
  • 企業年金
  • 企業型DC
  • iDeCo
  • 小規模企業共済
  • 自社から将来受け取る役員退職金

など、老後に受け取るお金が複数あるケースも多いです。

複数ある場合は、iDeCoだけ、小規模共済だけ、ではなく。トータルで考える必要があります。
私に実際に寄せられた2件の相談でも、資料を時系列に並べて試算をしました。

この記事では、年齢・金額・時期などを変更した2つのモデルケースを使って、iDeCo・退職金・小規模企業共済の「出口設計」を解説します。


目次

この記事の要点

  • 2026年から変わったのは、主に「iDeCo・企業型DCの一時金を先に受け取り、その後に会社退職金を受け取る場合」の調整期間です。
  • 会社退職金を先に受け取り、その後にiDeCo・DC一時金を受ける「19年ルール」は以前からあり、今回の改正でも基本的に変わっていません。
  • 10年ルールや19年ルールに該当しても、退職所得控除が必ず全部なくなるわけではありません。加入期間・勤続期間が重複する部分について調整されます。
  • iDeCoの受取時期を遅らせ、その間も加入者として掛金拠出を続ければ、iDeCo側の控除が増えることがあります。一方で、現在勤務している会社との重複期間が伸びれば、将来の会社退職金側の控除は減ります。
  • 経営者・役員は「どの制度を先に受け取るか」だけでなく、「現役中の所得水準」「退職後の年金」「自社退職金」まで合わせたシミュレーションが必要です。

まず知っておきたい退職所得の基本

退職金は、原則として次のように退職所得を計算します。

(退職金-退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額は、勤続年数20年以下なら原則として「40万円×勤続年数」、20年を超える部分については1年につき70万円です。退職所得は給与所得などと分けて課税されるため、現役時代の所得税率が高い人にとって非常に強い税制優遇です。

ただし、この記事の対象である役員・経営者には重要な例外があります。

役員等としての勤続年数が5年以下で、その期間に対応する退職金が「特定役員退職手当等」に該当する場合、控除後の金額を2分の1にする優遇はありません。役員就任から短期間で退職金を支給する場合には、通常の役員退職金と同じ感覚で税額を計算しないよう注意が必要です。


2026年からの「10年ルール」と従来からの「19年ルール」

iDeCoや企業型DCの老齢一時金も退職所得です。

そのため、会社退職金などと加入期間・勤続期間が重なっている場合、同じ期間について退職所得控除を二重に使わないための調整規定があります。

iDeCo・DC一時金を先に受ける「10年ルール」

2026年1月1日以後にiDeCo・企業型DCの老齢一時金を受け取り、その後に会社退職金などを受け取る場合、後の退職金の受取年から見て「前年以前9年内」にそのDC一時金があると、重複期間について退職所得控除が調整されます。

一般には「10年ルール」と呼ばれています。

従来は「前年以前4年内」、いわゆる5年ルールでしたが、2026年以後のDC一時金について9年内へ延長されました。

たとえば2026年にiDeCo一時金を受け取った場合、2035年に会社退職金を受け取ると、2026年はまだ「前年以前9年内」に含まれます。

2036年に会社退職金を受け取れば、2026年は対象期間から外れます。

「10年空ける」というより、受取年を10暦年離すと理解した方が正確です。

会社退職金を先に受ける「19年ルール」

逆に、会社退職金などを先に受け、その後iDeCo・DC一時金を受ける場合は、iDeCo一時金を受け取る年の前年以前19年内に受けた退職金との重複を確認します。

こちらは今回新しくできた制度ではありません。従来から存在する、いわゆる「19年ルール」です。

例えば2024年に会社退職金を受けた場合、2043年のiDeCo一時金ではまだ2024年が前年以前19年内に入ります。完全に外れるのは2044年です。

つまり受取年を20暦年離す必要があります。

iDeCoは原則として75歳までに老齢給付金の請求をする必要があるため、60歳前後で前職退職金を受けた方が19年ルールを外すのは現実的でないケースが多いように感じます。


10年ルールに該当すると「退職所得控除が全部なくなる」は誤解

ここは非常に多い誤解です。
10年ルールや19年ルールの対象になったとしても、原則として退職所得控除が丸ごとゼロになるわけではありません。

問題になるのは、前の退職金等の計算基礎となった期間と、後の退職金等の勤続期間・加入期間が重なっている部分です。

例えば、今の会社に役員就任して4年目の経営者が、その4年間ずっとiDeCoにも加入していて、今iDeCo一時金を受けたとします。

5年後に会社から退職金を受け取る場合、10年ルールには該当しますが、調整対象となる期間が約4年なら、

40万円×4年=160万円

が、後の会社退職金側の退職所得控除から調整されるイメージです。
本来は360万(9年分)だった退職所得控除が、200万に減額されるわけですね。

お客様は「10年以内だから退職所得控除が全部使えない」と思っていましたが、そういうわけではないと伝えると、少し安心されたご様子でした。


企業型DCからiDeCoへ移した場合は加入期間も確認する

もう一つ、実務で非常に間違えやすいのが企業型DCからiDeCoへ移換したケースです。

例えば、会社員時代に20年間企業型DCに加入し、退職時にその資産をiDeCoへ移したとします。

その後2年でiDeCo一時金を受け取るからといって、「iDeCo加入2年分だけ」で退職所得控除を計算するわけではありません。
企業型DCからiDeCoへ資産を移換した場合、DCの加入期間等も通算して受給資格や退職所得控除の計算を考える必要があります。

過去の企業型DC資料を捨ててしまっている方も少なくありません。

退職金・企業年金・DCについては、少なくとも、

  • 退職所得の源泉徴収票
  • 前職の入社・退職年月
  • 企業型DCの加入年月
  • iDeCoへの移換年月
  • 現在の会社への役員就任年月

が分かるようにしておくことをおすすめします。

源泉徴収票が保管されていたから助かった

今回のケースでは、お客様が過去の退職所得の源泉徴収票を保管してくださっていたため、判定する際に助かりました。

退職所得の源泉徴収票や勤続期間の資料は保管しておくことをおすすめします。


モデルケース① 小規模企業共済とiDeCoを持つ個人事業主

まずは個人事業主のケースです。

設定

  • 50代後半
  • 個人事業主
  • 小規模企業共済に10年以上加入
  • iDeCoにも長期間加入
  • 小規模企業共済には契約者貸付の残高あり
  • 公的年金は多くなく、民間個人年金なども老後資金として準備
  • 当面は仕事を辞める予定なし

ご本人は当初、

「iDeCoは60歳頃に受け取って、小規模企業共済は65歳頃に受け取ればいいかな」

と考えていました。

小規模企業共済は廃業しないと受け取れない?

ここもお客様が誤解されていた部分です。

小規模企業共済は「事業を廃止するまで受け取れない」と思われがちですが、65歳以上かつ掛金納付月数180か月以上などの要件を満たせば、仕事を続けながら老齢給付として受け取れるケースがあります。

したがって、「まだ仕事を続けたいから、小規模企業共済も受け取れない」わけではありません。

iDeCoを60歳、小規模企業共済を65歳で一括受取すると?

この方の場合、まず考えたのが、「iDeCoを先に受け取り、その後に小規模企業共済を受け取る」という順番です。
ご自身でもしっかりとシミュレーションされており、それをベースに話し合いました。

小規模企業共済を先に一括で受け取り、その後iDeCoを一時金で受け取ると、iDeCo側では「前年以前19年内」の退職金との重複を確認する、いわゆる19年ルールの対象になります。

一方、iDeCoを先、小規模企業共済を後にすれば、後の共済側で問題になるのは2026年からの10年ルールです。

そのため、受取順序としては「iDeCo→小規模企業共済」を基本線としました。

ただし65歳頃に仕事を辞めるとすると、
60歳でiDeCo一時金を受け取り→65歳で小規模企業共済を一括で受け取り
となり、受取年は10暦年離れていないため、共済側の退職所得控除について調整が入ります。

そこで「どちらを先にするか」だけではなく、iDeCoを一時金と年金にどう分けるか、小規模企業共済を一括と分割のどちらで受け取るかまで比較しました。

iDeCoは「全部一時金」ではなく、一時金+年金を候補に

この方はiDeCoに10年以上加入しており、60歳時点では退職所得控除が500万円前後使える見込みでした。

そこでまず考えたのが、退職所得控除の範囲内は一時金で受け取り、残りを年金で受け取る方法です。

例えばiDeCo残高が1,000万円程度なら、500万円程度を一時金、残りを5年程度の年金として受け取る、といったイメージです。

一方、残りを年金として受け取れば、その部分は「公的年金等に係る雑所得」となり、公的年金等控除の対象になります。
(iDeCoは、一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能ですが、具体的な受取期間や方法は運営管理機関によって異なります)

この方の場合、もう一つポイントになったのが、公的年金の受給開始までまだ数年間あること
公的年金等以外の所得が1,000万円以下の場合、65歳未満の公的年金等控除の最低額は60万円です。

そこで、公的年金が始まる前の60代前半にiDeCo年金を受け取ることで、公的年金等控除を活用できると考えました。

例えば年100万円弱のiDeCo年金なら、60万円の公的年金等控除を差し引いた残額だけが公的年金等の雑所得になります。

この方は事業所得を今後少なくしていく方針だったため、高所得の経営者がiDeCo年金を受け取るケースと比べると、年金受取による総合課税のデメリットも限定的と考えました。

そのため、iDeCoについては「全額一時金」ではなく、「退職所得控除の範囲を一時金+残りを年金」を第一候補となりました。

なお、5年で受け取るか、10年で受け取るかなど、期間も考える必要があります。

長く分割すれば1年あたりのiDeCo年金は減りますが、65歳以降は公的年金も始まります。iDeCo年金と公的年金は同じ公的年金等控除を使うため、単純に「長く分けた方が税金が安い」とも限りません。

では、小規模企業共済は65歳で一括受取してよいのか

次に小規模企業共済です。

iDeCoを60歳、小規模企業共済を65歳で一括受取すると、10年ルールに該当します。
そのため、共済側の退職所得控除はフルには使えません。

この方は、小規模企業共済の加入期間のうち、iDeCoの加入期間と重なっている年数が10年くらいあります。

仮に共済側で本来800万円の退職所得控除が使えるところ、iDeCoとの重複期間に対応する400万円が調整されれば、実際に使える控除は400万円まで減る、といったイメージです。

それを踏まえて、一括受取と分割受取の両方を比較しました。

共済を年金で受け取ると、今度は公的年金と重なる

小規模企業共済を分割で受け取った場合、その年金は「公的年金等に係る雑所得」です。(kyosai-web.smrj.go.jp)

この方は65歳から公的年金を受け取る予定です。そのため65歳以降に、公的年金+小規模企業共済の分割年金を受け取ると、両方で同じ公的年金等控除を使うことになります。

iDeCo年金を公的年金開始前に受け取る場合とは事情が変わってくるわけです。

公的年金だけで公的年金等控除の大半を使ってしまうのであれば、小規模企業共済の分割年金は、その多くが毎年の雑所得として上乗せされます。

さらに、65歳になった後も仕事を続けていれば事業所得もあるため、総合課税の対象となる所得が増えることになるわけです。

一方、一括受取なら退職所得控除は10年ルールで減るものの、控除後の金額について原則2分の1課税、かつ他の所得とは分離して課税されるという退職所得のメリットがあります。

そこで実際に概算してみると、この方の想定額では、控除が調整されたとしても、小規模企業共済は一括受取の方が有力という結果になりました。

分割受取は受取総額自体が若干増える場合がありますが、10年・15年という長期間にわたって雑所得として課税されます。
一括受取なら早い段階で資金を受け取り、その後は自分で運用することもできます。

税額だけではなく、資金を早く自由に使えることまで考えると、このケースでは一括受取を第一候補としました。

貸付金があるため、分割受取にはもう一つ問題があった

さらに、この方は小規模企業共済の契約者貸付を利用していました。

共済金が600万円、貸付金が300万円残っている場合、受け取った300万円ではなく、600万円が退職所得です。

分割受取を選んだ場合でも、未返済貸付金等として相殺される部分は「一括受取り共済金」として扱われ、退職所得になります。残った部分が分割受取となり、公的年金等に係る雑所得になります。

つまり、

貸付相殺部分=退職所得
残額の分割部分=公的年金等の雑所得

という形です。

また、小規模企業共済の分割受取には最低金額の要件があります。

貸付金等を控除した後の金額が300万円程度しか残らないケースでは、そもそも分割受取の最低金額を満たせるかどうかも確認しなければなりません。(kyosai-web.smrj.go.jp)

10年待って共済の退職所得控除を復活させる方法もある

もちろん、もう一つの選択肢もあります。

iDeCo一時金を先に受け取り、小規模企業共済の一括受取を10暦年以上後まで待てば、iDeCo一時金は10年ルールの対象期間から外れます。

そうすれば、小規模企業共済側ではiDeCoとの重複による調整を受けず、本来の退職所得控除を使える可能性があります。

税金だけを考えればきれいな方法です。
ただし、そのためには共済金を受け取る時期をさらに数年遅らせる必要があります。

この方は「老後資金はできるだけ早く現金化し、NISAなどでも運用したい」という希望もありました。
数十万円程度の税金を減らすために、使える資金を何年間も共済の中に残しておくことが、本当に本人にとって得なのか。

ここは税額だけでは決められません。

この方についての結論

最終的には、次のような方針を基本線としました。

① iDeCoを先に受け取る

小規模企業共済を先に一括受取し、その後iDeCo一時金を受けると19年ルールが関係するため、受取順序はiDeCoを先とする。

② iDeCoは「退職所得控除の範囲を一時金+残りを年金」を第一候補とする

一時金部分では退職所得控除を有効に使い、残りは公的年金が始まる前の期間を中心に年金で受け取る。

③ 小規模企業共済は一括受取を第一候補とする

iDeCoから10年経たずに受け取れば退職所得控除の調整は入るものの、この方の公的年金、事業所得、貸付金、分割受取時の税金まで比較すると、現時点では一括受取が有力。

④ ただし、実際の受取年齢になった時点でもう一度計算する

iDeCoの実際の運用残高、公的年金額、小規模企業共済の共済金額、貸付残高、事業所得は今後変わります。

そのため、「60歳で必ずこの金額を一時金」「65歳で必ず共済を一括」と今すべて固定するのではなく、受取順序と基本方針だけ先に決め、実額は受取直前に再シミュレーションしようと思っています

モデルケース② 前職退職金・企業年金・iDeCo・自社役員退職金がある経営者

こちらは経営者に特に多いパターンです。

設定

  • 60歳前後
  • 新卒から長年勤務した会社を数年前に退職→独立
  • 前職から退職一時金を受取済み
  • 同じ年に、企業年金制度からも別途一時金を受取済み
  • 前職では2000年代から企業型DCに加入
  • 退職時に企業型DCをiDeCoへ移換
  • 現在のiDeCo残高は1,000万円を超える
  • 前職退職の少し前後に自分の法人を設立し、現在数期目
  • 65歳前後で自社から数千万円規模の役員退職金を受け取ることも検討
  • 現在の所得税率は最高税率に近い高所得層

ご本人からの相談は、

「iDeCoを受け取ってから10年空けないと、会社の退職金で退職所得控除が使えないと聞きました。今すぐiDeCoを受け取った方がいいのでしょうか?」

というものでした。


本当に重要だったのは「10年ルール」より前職との19年ルール

本人が気にしていたのは、iDeCo → 将来の自社退職金の10年ルールでした。

しかし時系列を整理すると、その前に、前職退職金・企業年金一時金 → iDeCoという19年ルールがあります。

企業型DCには前職在職中から約20年間加入していました。

そのため、

  • 前職の勤続期間
  • 企業型DCの加入期間

が約20年間重複しています。

iDeCo一時金を受ける際には、この重複期間が退職所得控除に影響します。
しかも前職退職時に受け取った退職金・企業年金一時金の合計額は、前職の退職所得控除額を大きく上回っていました。

税法には、前の退職金がその退職所得控除額より少なかった場合に、実際の受取額に応じて「前の勤続期間」を短くみなす仕組みがあります。

しかし、このケースでは前の退職金等の収入金額が控除額を上回っているため、その救済的な計算を利用できません。

つまり、「10年ルールになったから、とにかく早くiDeCoを取る」のが正解とは言い切れない、と考えました。


iDeCoを今受け取った場合、自社退職金の控除が全部なくなるわけではない

この方は現在の会社を設立してまだ数年です。

仮に役員就任から約5年間、iDeCoの加入期間と重なっている状態でiDeCo一時金を受け取れば、その後10年ルールの期間内に自社退職金を受けた場合、主に問題となるのはその約5年間の重複です。

50万円×4年=200万円

の退職所得控除が後の自社退職金側で調整されるイメージです。

自社で10年間役員を務めたなら、

  • 本来の退職所得控除:約400万円
  • 重複5年相当:約200万円
  • 調整後:約200万円

というような考え方になります。

iDeCoを待つと有利なのか

ここが今回の相談で難しかった部分です。

前職はすでに退職しています。

そのため、iDeCoを数年間待ち、その間も加入者として掛金拠出を継続して、退職所得控除の計算基礎となる期間が伸びるのであれば、前職との重複期間は増えない一方、iDeCo側の加入期間は増えていきます。

20年を超える部分では、退職所得控除は原則1年につき70万円増えます。
これはiDeCo側には有利です。

ところが、その間も現在の会社の役員であり続ければ、現在の会社の役員期間とiDeCo加入期間の重複も1年ずつ増えていきます。
こちらは将来の自社退職金側に不利です。

つまり、

iDeCoを待つ
→ iDeCo側の退職所得控除は増える
→ その代わり自社退職金側の退職所得控除は減る

というトレードオフです。

実際にこのモデルで「今iDeCoを受ける」「数年間掛金を続けてから受ける」を概算比較すると、想像していたほど大きな税額差にはなりませんでした。

ニュースだけを見ると、「10年ルールになった。今すぐ受け取らないと大損だ」と思ってしまいがちです。

しかし、実際の税額は前後の退職金まで含めて計算しないと分かりません。


それなら会社退職金を10年ルールが外れるまで待てばいい?

税務だけを考えれば、これも選択肢です。

例えば2026年にiDeCo一時金を受け取った場合、2036年に会社退職金を受ければ、調整から外れます。
税額だけを見れば最もスクなkなるかもしれません。

ただし、数十~百万円程度の節税のためだけに、会社を辞める時期を5年間遅らせるべきかは別問題です。

退職金の出口設計では、税額だけでなく、

  • いつまで働きたいのか
  • 役員報酬をいつまで取るのか
  • 会社を誰に引き継ぐのか
  • 退職後に何をしたいのか

まで考える必要があります。
税金を最小にすることと、人生全体で最適な選択は同じとは限りません。

この方の結論

実際にこの方は、「iDeCoはすぐには解約せず、まだ掛け続ける。自社から受け取る退職金に調整が入るのは仕方ない」という結論を出されました。

先述したトレードオフの関係と、いつまで働けるか、働きたいかがまだ未確定であること、税額差よりも考えなければならないことがある、ということを大切にされたようです。

税額差がそれほどでもないことがわかったため、安心して(割り切って)こうした結論を出されたのだと思います。


高所得の経営者にiDeCoの年金受取を安易に勧めない理由

ちなみにこの方にはiDeCoの年金受け取りはすすめませんでした。

一時金ではなく年金で受け取れば、退職所得控除の調整問題はなくなるものの、iDeCo年金は公的年金等に係る雑所得のため、総合課税されるからです。

この方は高額の役員報酬を受け取っており、総合課税の税率が高いため、年金受け取りは不利、「退職所得控除が少し減っても、一時金で受けて課税関係を終わらせた方が有利」と考えました。

役員・経営者の退職金出口設計で確認したい6項目

ここまでの2つの相談から、私が実際に確認する項目を整理すると次のようになります。

1.過去の退職金をすべて洗い出す

前職退職金だけではありません。

企業年金基金や信託銀行などから別に一時金が出ていることがあります。

本人が「退職金は1回だけ」と認識していても、源泉徴収票を見ると複数あるケースがあります。

2.DCの加入年月を確認する

企業型DCからiDeCoへ移している場合は、企業型DC時代まで遡ります。

「iDeCoを始めて何年か」だけでは判断できません。

3.受取順序を時系列にする

例えば、

前職退職金 → iDeCo → 自社役員退職金

なら、

  • 前職退職金→iDeCo:19年ルール
  • iDeCo→自社役員退職金:10年ルール

の両方を確認します。

4.一時金だけでなく年金受取も比較する

ただし「年金なら非課税」というわけではありません。

公的年金・企業年金・役員報酬・事業所得などと合わせて、将来の課税所得を考えます。

5.借入や相殺後の「手取り」と課税額を混同しない

小規模企業共済の貸付金のように、実際の振込額が減っても、税務上の受取額が同じように減るとは限らないものがあります。

6.自社役員退職金は法人側も別途検討する

この記事では主に個人側の退職所得課税を解説しています。

自社から役員退職金を出す場合には別途、

  • 支給時期
  • 法人側の損金算入時期
  • 不相当に高額な部分がないか
  • 功績倍率等による金額の妥当性

などの論点があります。

「個人の税金が安くなる金額」と「法人税法上、全額損金になる金額」は別問題として検討する必要があります。


2026年12月からはiDeCoの「入口」も変わる

出口だけではなく、iDeCoへの拠出制度自体も変わります。

2026年12月1日から、一定の要件のもとで60歳以上70歳未満の方にもiDeCoへの加入・継続拠出が拡大されます。

また、拠出限度額についても、

  • 第1号被保険者:国民年金基金等との共通枠で月7.5万円
  • 第2号被保険者:企業年金等との共通枠で月6.2万円

へ引き上げられます。

そのため60歳になったからといって、「すぐiDeCoを受け取る」ではなく、加入を継続して所得控除を受けながら運用し、数年後に受け取るという選択肢も広がります。

ただしこの記事で見たように、受取を遅らせて加入期間を伸ばすと、将来受け取る別の退職金との重複期間も伸びることがあります。

拠出時の節税と、受取時の税金はセットで考える必要があります。


よくある質問

Q1.2026年にiDeCo一時金を受け取ったら、会社退職金はいつ受ければ10年ルールから外れますか?

2026年のiDeCo一時金については、2035年の会社退職金ではまだ「前年以前9年内」に含まれます。
2036年に会社退職金を受ければ、2026年は対象期間から外れます。

ただし、他に過去の退職金等があれば別の調整規定が関係する可能性があります。

Q2.会社退職金を先に受け、その後iDeCoを受ける場合は何年空ければいいですか?

いわゆる19年ルールでは、iDeCo一時金を受ける年の「前年以前19年内」にある退職金を確認します。

したがって、完全に対象外とするには受取年を20暦年離す必要があります。
2024年に会社退職金を受けた場合、2043年ではまだ対象、2044年なら2024年分は対象期間外となります。

Q3.iDeCoと会社退職金を同じ年に受ければ10年ルールを回避できますか?

同じ年に複数の退職手当等を受けた場合は、それぞれで別々に退職所得控除を使うわけではありません。

同一年中の複数の退職手当等として、勤続期間や支払額を一定の方法で調整して退職所得を計算します。

単純な「10年ルール回避策」にはなりません。

Q4.小規模企業共済は廃業しないと受け取れませんか?

必ずしもそうではありません。

65歳以上かつ掛金納付月数180か月以上などの要件を満たせば、事業を続けたまま老齢給付を請求できるケースがあります。

Q5.iDeCoは一時金と年金を組み合わせられますか?

金融機関・運営管理機関によっては、一部を一時金、残りを年金として受け取る方法を取り扱っています。

ただし、受取期間・回数・一時金額をどこまで自由に指定できるかは運営管理機関によって異なります。

「退職所得控除分だけ一時金にして、残りを年金にする」といった設計を考える場合は、税額計算の前にご自身の運営管理機関で選択可能な受取方法を確認してください。


まとめ 退職金は「制度ごと」ではなく「人生全体の時系列」で考える

iDeCoの10年ルールについて調べると、

「5年から10年に改悪された」
「早くiDeCoを受け取った方がいい」
「退職金は10年空けなければならない」

と考えがちで、制度改正自体は事実です。

しかし実際の相談を受けていると、10年ルールだけを見て結論を出せるわけではないと感じます。

特に役員・経営者の方は、

  • 過去の会社からの退職金
  • 企業年金
  • 企業型DC
  • iDeCo
  • 小規模企業共済
  • 自社からの役員退職金
  • 公的年金
  • 退職後の役員報酬や事業所得

まで複数の制度と所得が絡みます。

今回ご紹介した経営者のケースでも、本人が心配していたのは「iDeCoと将来の自社退職金の10年ルール」でした。

しかし資料を確認すると、まず考えるべきだったのは、数年前に受け取った前職退職金・企業年金一時金とiDeCoとの19年ルールでした。

また、

iDeCoを遅らせればiDeCo側の控除は増えるが、自社退職金側の控除は減る

というトレードオフもあり、「今すぐ取る」「できるだけ待つ」のどちらかが一方的に有利とは限りませんでした。

退職金の出口設計で重要なのは、ネット上の一般論に当てはめることではありません。

過去から将来までの退職金・年金を一度すべて時系列に並べ、ご自身の金額で税額を計算することです。

数万円の税金のために働き方や退職時期を無理に変える必要はありません。

一方で、受取順序や年を少し変えるだけで数十万円、場合によってはそれ以上の差になることもあります。

当事務所では、iDeCo、小規模企業共済、企業年金、自社役員退職金など複数の制度が絡む経営者・個人事業主のご相談について、源泉徴収票や加入履歴などの資料を確認しながら、実額ベースで受取スケジュールを検討しています。

「自分の場合は10年ルールと19年ルールのどちらが関係するのか」「一時金と年金のどちらがいいのか分からない」という方は、一般論だけで受取方法を決める前に、一度全体を整理してみることをおすすめします。

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